投稿日:2017年6月29日

長く久しく生きる容

大粒の雨と…

狂ったかのように鳴き叫ぶカモメらの暴声で目覚めた東北の旅2日目の朝は、山伏に急接近した非現実的な前日もリアルな一時であることを教えてくれているように感じる。

象潟港を望む宿の窓辺にある小さなアロエの鉢植えが微笑みかける…呑みすぎの朝…いつもの(笑)…そう…前夜は象潟の海鮮とお酒に舌鼓を打ちまくり、いつもと変わりなく軽い麻酔にかかったような朝を迎えた。

象潟漁港と窓辺のアロエ

平成29年5月27日(土)
今日は象潟町小滝にある金峯きんぽう神社にて例大祭後に、平安時代から約1200年続くとされる国指定重要無形民俗文化財「小滝のチョウクライロ舞」が奉納される日。。例祭はもともとは6月15日だったが、第2土曜に変更され、昨年あたりから5月末の土曜になったらしい。

金峯神社のある小滝集落は鳥海山の麓に位置し、往古はその登山口として鳥海修験の拠点となっていたらしい。その修験者達やその関係者たちによって多くの舞楽やアマノハギが行われ、現在に至っても鳥海山小滝舞楽保存会がその伝統を受け継いでいる。

狂言の起源とされる猿楽とも深い関わりがあった延年・田楽系芸能のひとつということで、チョウクライロ舞の奉納はとても楽しみ

っとその前に腹拵え。

金峯神社前にある「滝の茶屋」でとろろ蕎麦を頂く…それは固めの麺に濃いめの汁がとろろを介してしっくり馴染み想像以上にあっさりと美味しい。そしてアカシアの花と柿の葉の天婦羅をサービスでだしていただき岩塩だけで頂く。店の入り口のバケツに入ったアカシアの花が視界には入っていたが、まさか天婦羅になろうとは(笑)アクがなく甘味があってこれまた美味しい🎵

金峯神社前にある「滝の茶屋」

2年ほど前に小滝へ越してきたという、とても気さくな秋田美人の女将さんとお話が盛り上がりすぎて、飲食代を支払い忘れた!当日秋田市内から現金書留で郵送!危うく無銭飲食犯でした(笑)

さて…

金峯神社(秋田県にかほ市象潟町小滝)

白鳳8年(680年)天武天皇が皇后の病気平癒を祈願して薬師寺を建て、時に役行者を遣わし、鳥海山大己貴神に薬師如来を習合して鳥海山大権現を祀り、小滝竜頭寺の少彦名神に仏神を習合して蔵王権現を祀った。蔵王権現は役行者が一千日の修行に入り、感得された権現仏で釈迦如来、千手観音、弥勒菩薩が権化されたものだが、現在の御祭神…つまり神仏分離後は蔵王権現を継体天皇の第1子である安閑天皇としている。

金峯神社

言祝ぎを伝える演舞

チョウクライロ舞という不思議な名前の舞が始められたのは今から千百五十年以上も遡ります。そのころ鳥海山に悪霊が住み、人々を悩ましていました。そこで慈覚大師が命ぜられて、この地を訪れ、鳥海山大権現と蔵王権現に祈り、法力で退治することができたのです。その際に大師はアララギの大木で一丈五尺の聖観音像を造り、陵王、納曽利の面を掘り、その面で厭舞えんぶを奉ずるための土舞台も築き、八講祭という神恩感謝の祭りをしたといいます。


境内に入ってみると…

お祭りで彩られた金峯神社の鳥居を抜けるとすぐ左手に閻浮堤えんぶだい(チョウクライロ山)といわれるチョウクライロ舞を奉納するための四角形の土舞台がある。円くすると土俵のような大きさだ。

拝殿で例祭を終えた一行が、長い石段を下って、登って、また下って…鐘鏤堂の鐘を響かせ閻浮堤に歩んでくる。

小滝の延年チョウクライロ舞

そして閻浮堤の周りをしばらく回り続けたあと、チョウクライロ舞を奉納するための閻浮堤を祈祷によって清め払う「十二段の舞」が御宝頭(獅子頭)によって行われる。

小滝の延年チョウクライロ舞・十二段の舞

地元では獅子頭のことを御宝頭と呼ぶ。鳥海山一帯で舞われている二人立ち一頭の祈祷獅子舞なのだが…舞終了後に頭持ちが汗だくで足元がふらつくほど疲弊した姿を見ると、運動量だけを見ると、あとのチョウクライロ舞をすべてみても、この頭持ちがMVPだなーと思える(笑)

「十二段の舞」が終了し閻浮堤が清められ、MVP頭持ちに拍手喝さいが起こった後、七つの舞で構成された「チョウクライロ舞」が始まる。各々画像の下に唱え言葉も列記しているが興味のある方は動画にて確認願います。また七つの舞それぞれの動画もありますので、興味のある方は動画サイトを確認ください。

1、九舎くしゃの舞〈倶舎の舞〉

五穀豊穣祈願の舞。

陵王りょうおう納曽利なそりの面を付けた青年二人が鳥帽子舞、袖舞、扇舞と順に進行する。倶舎とは食物を入れる器の意味らしい。

小滝の延年チョウクライロ舞・九舎の舞

タイシトンサッサー

大空無幻道タイクームーケントー

妙渾元任登法ミョーコンコユーショー

称限尽事ジントーグンシンジ

成豊群納ショウブグンノージ

タイシトンサ

タイシトンサ

タイシトントンサー

タイシトンサ

サ・サ・サーサーサー


2、荒金の舞

乱世を平定し守る舞。

青年一人が狩衣姿にて陵王の面をつけ、薙刀を持って舞う。閻浮台に張られた注連縄を東西南北と四方向順に薙刀で切り離し舞に入る。

小滝の延年チョウクライロ舞・荒金の舞

トウーヒヤーラ

シユーヤーラ

トウーヒヤーラ

シユーヤーラ

ラリンシヤ

ラーラフラーラ

ラーラフラーラ

ラーラフラーラ

ラーラフラーラ

ラートウロ

タンリンチヤ

チヤンサー


3、小児ちごの舞

内外清浄、延命長寿の舞。「チョウクライロ舞」「花笠舞」とも呼ばれる。

小滝の延年チョウクライロ舞・小児の舞

チヨウクライロー

チヨウクライロー

チヨオニ ハイロ ハイロ

チヨウクライロ

ホニチヨウクライロー

トウーヒヤーラ

ラララ

ラーホー

タンリンチヤ

チヤンサー

ラーラフラーラ

ラーラフラーラ

ラーラフラーラ

ラーラフラーラ

ラーラフラーラ

チヨオニ ハイロ ハイロ

チヨウクライロ

ホニチヨウクライロー 


4、太平楽の舞

人倫を尊ぶ舞、子供四人が舞う。

小滝の延年チョウクライロ舞・太平楽の舞

オヒトツ

シユラ

ハイローロー

オヒヤンカーラ

ラリンシヤ

ララーホーロ

タラリンシヤラー

ハイローロー

オヒヤンカーラ

シユラ

ラリンシヤ

ララーホーロ

タラリンシヤラー


5、祖父祖母の舞

男女二人による陰陽和合、万物生長の舞

小滝の延年チョウクライロ舞・祖父祖母の舞

セーンセーンセーンセン

セーンセーンセーンセン

セーンセーンセーンセン

セセンノセン


6、瓊矛ぬほこの舞

万国豊潤幸福招来の舞

小滝の延年チョウクライロ舞・矛の舞

テーンカカカーカ

カカーカカカーカ


7、閻浮えんぶの舞

五穀潤沢の舞。はじめ男役として陵王の面を付けて舞い、次の人は女役として納曽利の面を付けて舞う

小滝の延年チョウクライロ舞・閻浮の舞

シウヤラ

ラーラ

ラーラフラーララーラ

お一つ二つ三つ四つ五つ六つ七つ

シウヤラ

ラーラ

ラーラフラーララーラ


「長く久しく生きる容」

医療技術の乏しい往古は自然災害と争いによる食糧不足や疫病による死亡率が高く、特に将来を担う子供たちの延命長寿は願ってやまない事であったに違いないわけで、3組目の小児の舞では「チョウクライロ」と唱っている。これは漢字にすると「長久生容」と書き、「長く久しく生きる容(すがた)」を意味するという。

当時の…今を懸命に生きる明日をも知れぬ人々がすがるような気持ちで五穀豊穣、延命長寿、国家平安を祈る姿が目に浮かぶ。

一時間足らずのチョウクライロ舞だったが、これを観るためだけに来るべきだと強く思う。

by 世界平和願うよ…おっとこ前

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