投稿日:2018年9月29日

鬼と桃太郎

ジョビジョビじょびじょび

「緊急自動車が通過します!緊急自動車の通過です!車は左に寄せなさい!」

渋滞中の車両をむりやり道路脇に寄せ、「旅姿三人男」を熱唱しながら疾走する爆音のデコトラ

そして

トラックの後ろには「桃太郎」が描かれている

ジョビジョビじょびじょび

桃太郎トラック野郎 御意見無用(シリーズ第1作目)

 まだ小学四年生くらいだったころ、よく連れて行ってもらった大阪の寝屋川駅付近にある映画館で、派手なトラックとその排気音が鮮烈に脳天へ刻み込まれた

『トラック野郎(シリーズ全10作)』

 昭和50年〜54年(1975〜79年)にかけて正月とお盆に「寅さん」に対抗すべく東映の製作・配給で公開された鈴木則文監督作品。主演の故菅原文太氏演じる「星桃次郎」と故愛川欽也氏演じる「やもめのジョナサンこと松下金造」の二人を中心に、男の性や義の珍道中を描いた大衆娯楽活劇である。

 私の年代でトラック野郎に感化された男衆の多くが、トラックの運転手を生業としバブル期日本の物流を支えてきたのではないだろうか。かく言う私も桃次郎風に言うなら「運輸省関係の仕事」に20年近くご縁があった。バブル万歳!

 さて、桃太郎の描かれたトラック野郎では、カンカン場(看貫場)〈車両重量測定器〉で容赦ない過積載取締をする「鬼台貫おにだいかん」と呼ばれる警察(国家権力)を「鬼」にしているところが痛快であるが、決して「鬼」は悪者として表現はされていない。

ならば

童話のなかの「鬼」はどうなのだ…。

桃太郎 楠山正雄 – 青空文庫

「ほうぼう外国の島々をめぐって帰って来た人」から「悪い鬼どもが、ほうぼうの国からかすめ取った貴い宝物を守っている。」と聞いた桃太郎は鬼せいばつに向かう。

最初鬼は門を締めて隠れてしまうが、桃太郎の先制攻撃で、門を開けられた鬼どもはやむなく棒を振り回して抵抗する。どうやら鬼どもは「からだが大きいばっかりで、いくじのない鬼ども」らしい。すぐ降参して桃太郎に宝物を差し出した。桃太郎 楠山正雄 – 青空文庫より一部引用

どうやら「悪い鬼」らしいが「いくじはない」。「かすめ取った貴い宝物」を武力によって「宝物を差し出させる」

もはや「勝てば官軍」なのか…。


 そのような「桃太郎伝説」は岡山、愛知、香川、近年では山梨などで語られているが、このたび岡山北部の美作から津山を訪れたので、もう少し足を伸ばし総社市方面へ行ってみようと思う。

 神武東征以前の古代日本において「吉備王国」が渡来人の知恵と大陸の技術をもって発展し繁栄した時代があった。

 その時代に吉備国の神奈備「吉備の中山(標高175m)」に鎮座していた「吉備津神社」は、吉備王国が大和朝廷に属されて後の乙巳の変(大化の改新)や壬申の乱を経て、「備前国」「備中国」「備後国」に分割、さらに備前の北部を「美作」に分割されて、備中国の一宮となった。そしてそれぞれに一宮が制定されたのだ。

 前日は「美作国」の一宮「中山神社」を訪れたが、その翌日は「端午の節句」ということもあり桃太郎伝説のひとつ「吉備」を訪れるには絶好の機会となった。

 先述した「吉備の中山」の中央を分断するように西側に備中一宮「吉備津神社」が、東側に備前一宮「吉備津彦神社」が鎮座する。両社2キロ程しか離れていないのだ。

吉備津神社前の売店

 赤鬼も働く売店を横目に元祖「吉備津神社」へ、近隣の住宅地が少し離れているのと、国宝ということもあって国内外の観光客が多いように見える。少し長めの階段を上り随身門を抜けるとすぐ目前に拝殿が現れた。他の神社によく見られる、門と拝殿の間の広場や長い石畳は無く、門、授与所、拝殿本殿がひと続きになっているような配置になっている。そして拝殿の右側は森林群になっていて回り込めないので、参拝を終えると左側の広場に足を向けざるを得ない。

吉備津神社 岡山市保存樹 イチョウ

 すると樹齢600年と云われる岡山市指定保存樹のイチョウ(樹高24.8m)が目の前に現れる。引き寄せられるようにイチョウの下へ向かい、見上げつつ、撫で回し、ふとそこで振り返ると、入母屋造の2棟を連結させた「比翼入母屋造」に更に拝殿を連結させた「吉備津造」と云われる「国宝本殿拝殿」が巨大な姿を表す。

吉備津神社 吉備津造の本殿吉備津神社
〒701-1341
岡山県岡山市北区吉備津931
TEL 086-287-4111
主祭神:大吉備津彦命 おおきびつひこのみこと

 今から約600年前の室町時代、将軍足利義満の時代に約25年の歳月をかけて再建され、解体修理もなく現代に伝わっている。その姿に人々は「おお!」と声をもらし、思い思いに撮影が始まるのだ。本殿拝殿を横目にさらに奥の高い場所へ行くと「境内末社 一童社」がある。菅原道真公と天鈿女命あめのうずめのみこと(学問と芸能の神)をお祭りしており、その目前には「桃太郎と鬼の絵馬」が掛けられている。

吉備津神社 桃太郎の絵馬
吉備津神社境内 一童社 明るい門出「境内末社 一童社」向かいにある「祈願トンネル」勝利のVサインの配置になっている。

 吉備津神社を出て東ヘ車で数分走るとすぐに「吉備津彦神社」が見えてくる。この度は初めてだったので国道から移動したのだが、2キロ程なので歩いても約30分弱だろう、地元集落の中をのんびり歩きながら行くのも良い選択かもしれない。境内目前には住宅地が多く、観光地というよりは地域に密着しているようにも感じる。そして、端午の節句ということもあり、無料駐車場の上空には沢山の鯉のぼりが泳ぐ中、「摂社 子安神社」の大祭である「こどもまつり」も開催されている。家族連れが多いわけだ。「えい!エイ!」と甲高い声で子供たちが空手の演武をしている。腕組みをしながら暖かく見守る師匠を横目に拝殿へ向かうと、木肌のめくれた杉の巨木が出迎えてくれた。

吉備津彦神社 岡山市保存樹 スギ

平安杉へいあんすぎ〈岡山市指定保存樹〉と云われる樹齢千年以上の御神木は、昭和5年の社殿火災の火にあぶられ幹の空洞化と老朽化が近年進行し倒木の恐れがあったらしいが、寄付によって平成16年に大手術治療が行なわれたという。そしてその横には鉄砲隊や鎧の着付け体験などがイベントを盛り上げ、ちょうど「うらじゃ振興会」による「うらじゃ(音頭)」が披露されるところだった。

「うらじゃ」の歌詞

今は昔の吉備の冠者よ
真金吹く吹く 吉備の国で
今は昔の吉備の冠者よ
ぼっけ ぎょうさん
宝を産んだ

燃やせ 叩け 熱いうちに
飲めや 踊れや 夜更けまで
ぼっけもんじゃ ぼっけもんじゃ
ぼっけもんじゃ

うらじゃ

ハレバレ大空 吉備の国
歌え 踊れ 鬼祭り
ハレバレ大空 吉備の国
うらじゃ うらじゃ うらじゃ

うらじゃ うらじゃ うらじゃ
うらじゃ うらじゃ うらじゃ
じゃ じゃ じゃ じゃ うらじゃ

吉備津彦神社 本殿吉備津彦神社
〒701-1211
岡山市北区一宮1043
TEL 086-284-0031
主祭神:大吉備津彦命おおきびつひこのみこと

 現存の本殿(岡山県重要文化財)は寛文8年(1668年)岡山藩主、池田光政が着手し、綱政によって元禄10年(1697年)に完成した檜皮葺の流造である。そして左側奥には境内末社温羅神社うらじんじゃ – 祭神:温羅属鬼之和魂(大吉備津彦命に討たれた鬼・温羅の和魂)が鎮座している。

吉備津彦神社 境内末社 温羅神社

 つづいて、10キロ以上離れている大和朝廷の陣「楯築遺跡」と温羅の「鬼ノ城」で矢や石を投げあったという、温羅伝説の舞台になった温羅の本拠地「鬼ノ城」を目指してみる。

温羅伝説〈鬼に出会う吉備路〉

 吉備津神社から車で北西に三十分ほど。標高約400mの鬼城山(きのじょうさん)に現在城門の「西門」と城壁の死角を防ぐ施設「角楼」が復元された古代山城「鬼ノ城」がある。その周囲は徒歩で約1時間半ほどの遊歩道が整備されてベビーカーや車いすでもハイキングを楽しめるようにはなっているが、登り口にある「鬼ノ城ビジターセンター」までの自動車での道のりは、不慣れな人はやや大変かもしれない。所々待避所が設けてあるにしても、車幅一台分の狭い道路が数キロにわたって続き、見通しのきかない個所も多い。

鬼ノ城 西の門から総社市内

 復元された、物見のために建てられたであろう「角楼」から見える「西門」。そして狭い道中と、蜂やマムシに注意して遊歩道を進むと、日本の山城とはかなり違いを見せる朝鮮式の造りと「ハレバレ大空 吉備の国~」がパノラマで見渡せるのだ。

鬼ノ城 西の門

 巨大な「西門」と当時の工法で作られた土壁を見上げると、大きすぎて仰け反りそうになり、下に落ちるのではなかろうかと錯覚さえ覚えてしまう。さらに遠目から見ると西門の前はすぐに斜面のように見えて、道すらないようにも見える。

鬼ノ城 第一展望台

 白村江の戦いで破れた百済の皇子が、唐・新羅軍の日本への侵攻を防ぐために築城し、製鉄技術を駆使し武具を揃え、吉備の国力を増強すれば、先住渡来の大和朝廷にとっては脅威となるはずであろう。何か大義名分をつけ難癖をつけなくても、武力でもって制圧することは当時の世の常かもしれない。敗戦した吉備の史実は抹消され、築城主さえ不明であるが、吉備国の残された領民たちが伝説として語り継ぎ、勝者の大和朝廷が都合の良いように歴史を作り上げた。そしてその伝説と歴史を利用して現代人が「桃太郎」を作り上げたのだ。歴史の流れによって築かれたのが現世ではなく、真実の積み重ねの末路が現世なのだな。

吉備津神社と吉備津彦神社の御朱印

知らん仏より、知ってる鬼の方がましじゃけんのう。「桃さん」こと、故菅原文太氏「仁義なき戦い」より

・・・まったくだな・・・by おっとこまえ

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