ジョビジョビじょびじょび
「緊急自動車が通過します!緊急自動車の通過です!車は左に寄せなさい!」
渋滞中の車両をむりやり道路脇に寄せ、「旅姿三人男」を熱唱しながら疾走する爆音のデコトラ
そして
トラックの後ろには「桃太郎」が描かれている
ジョビジョビじょびじょび
まだ小学四年生くらいだったころ、よく連れて行ってもらった大阪の寝屋川駅付近にある映画館で、派手なトラックとその排気音が鮮烈に脳天へ刻み込まれた
『トラック野郎(シリーズ全10作)』
昭和50年〜54年(1975〜79年)にかけて正月とお盆に「寅さん」に対抗すべく東映の製作・配給で公開された鈴木則文監督作品。主演の故菅原文太氏演じる「星桃次郎」と故愛川欽也氏演じる「やもめのジョナサンこと松下金造」の二人を中心に、男の性や義の珍道中を描いた大衆娯楽活劇である。
私の年代でトラック野郎に感化された男衆の多くが、トラックの運転手を生業としバブル期日本の物流を支えてきたのではないだろうか。かく言う私も桃次郎風に言うなら「運輸省関係の仕事」に20年近くご縁があった。バブル万歳!
さて、桃太郎の描かれたトラック野郎では、カンカン場(看貫場)〈車両重量測定器〉で容赦ない過積載取締をする「鬼台貫」と呼ばれる警察(国家権力)を「鬼」にしているところが痛快であるが、決して「鬼」は悪者として表現はされていない。
ならば
童話のなかの「鬼」はどうなのだ…。
桃太郎 楠山正雄 – 青空文庫
「ほうぼう外国の島々をめぐって帰って来た人」から「悪い鬼どもが、ほうぼうの国からかすめ取った貴い宝物を守っている。」と聞いた桃太郎は鬼せいばつに向かう。
最初鬼は門を締めて隠れてしまうが、桃太郎の先制攻撃で、門を開けられた鬼どもはやむなく棒を振り回して抵抗する。どうやら鬼どもは「からだが大きいばっかりで、いくじのない鬼ども」らしい。すぐ降参して桃太郎に宝物を差し出した。桃太郎 楠山正雄 – 青空文庫より一部引用
どうやら「悪い鬼」らしいが「いくじはない」。「かすめ取った貴い宝物」を武力によって「宝物を差し出させる」
もはや「勝てば官軍」なのか…。
そのような「桃太郎伝説」は岡山、愛知、香川、近年では山梨などで語られているが、このたび岡山北部の美作から津山を訪れたので、もう少し足を伸ばし総社市方面へ行ってみようと思う。
神武東征以前の古代日本において「吉備王国」が渡来人の知恵と大陸の技術をもって発展し繁栄した時代があった。
その時代に吉備国の神奈備「吉備の中山(標高175m)」に鎮座していた「吉備津神社」は、吉備王国が大和朝廷に属されて後の乙巳の変(大化の改新)や壬申の乱を経て、「備前国」「備中国」「備後国」に分割、さらに備前の北部を「美作」に分割されて、備中国の一宮となった。そしてそれぞれに一宮が制定されたのだ。
前日は「美作国」の一宮「中山神社」を訪れたが、その翌日は「端午の節句」ということもあり桃太郎伝説のひとつ「吉備」を訪れるには絶好の機会となった。
先述した「吉備の中山」の中央を分断するように西側に備中一宮「吉備津神社」が、東側に備前一宮「吉備津彦神社」が鎮座する。両社2キロ程しか離れていないのだ。
赤鬼も働く売店を横目に元祖「吉備津神社」へ、近隣の住宅地が少し離れているのと、国宝ということもあって国内外の観光客が多いように見える。少し長めの階段を上り随身門を抜けるとすぐ目前に拝殿が現れた。他の神社によく見られる、門と拝殿の間の広場や長い石畳は無く、門、授与所、拝殿本殿がひと続きになっているような配置になっている。そして拝殿の右側は森林群になっていて回り込めないので、参拝を終えると左側の広場に足を向けざるを得ない。
すると樹齢600年と云われる岡山市指定保存樹のイチョウ(樹高24.8m)が目の前に現れる。引き寄せられるようにイチョウの下へ向かい、見上げつつ、撫で回し、ふとそこで振り返ると、入母屋造の2棟を連結させた「比翼入母屋造」に更に拝殿を連結させた「吉備津造」と云われる「国宝本殿拝殿」が巨大な姿を表す。