投稿日:2018年10月7日

暗闇と幽玄

 居合仲間である若き漆芸家に鞘の修復を依頼した。

 彼が居合の門を叩いたときは既に漆芸家であったが、いかんせん私が歳上であってしまい且つほんの少し先輩になってしまったものだから、初の個展に向けての制作に多忙を極めるさなか、無理を言ってしまったみたいで申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 しかし一度彼から学んだことのある金継教室では、とにかく丁寧に、念を入れて、ゆっくり静かに、時間をかけて。そんな彼の姿勢が居合を通しても垣間見えたがゆえに、鞘の修復をお願いしたのだ。更に言うなら、穏やかな表面では伺い知れぬ熱い何かを持っている。そんなオトコだ…褒めすぎた…。

 五月雨すらも待ち遠しい空梅雨の前に仕上げられたその鞘は、今では希少な日本の漆で仕上げられ幽玄な笑みを浮かべている。暗闇の僅かな灯火でも寡黙にその存在を示す神妙な煌きに、改めて日本刀の拵えの一つひとつに気の入った技を感じる。

 それは死の匂いがする美しさでもあり、手にとる者の精神性をむきだしにしかねない危険性すら感じる。

 刀や剣は本来、人を殺傷するために開発されたものであろうが、時代と共に禅や儒学などの教えが取り込まれ、闘いの主役からお役御免になったとき、「日本刀」として精神的支柱へと発展を遂げた。躾や教え、そして心。日本刀や包丁などの「切れ物」の扱い方から学ぶべきことが日本人の魂の根源であり、道徳心につながるような気がする。


暗闇をさとりて光を知る


漆芸大坪工房 金沢漆器作家 大坪直哉

㊗平成30年12月12日㈬〜18日㈫「銀座 ギャラリーおかりや」にて初の個展
東京都中央区銀座4-3-5 銀座AHビル B2F
03-3535-5321

婦人画報「LIFESTYLE」でも紹介されています

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