投稿日:2019年3月4日

靱猿うつぼざる

 昨年の大雪と比べると今年は極端に雪が少ない。毎年2月に行われる狂言素人の会「狂言を楽しむ会」も昨年の大雪を考慮して2月末へと開催日を変更した。

 平成29年12月から始まった「東京国立近代美術工芸館」の移転に伴う整備工事のため、石川県立能楽堂に隣接する旧陸軍第九師団司令部庁舎と旧陸軍金沢偕行社が石川県立美術館といしかわ赤レンガミュージアム(石川県立歴史博物館)の間に移築される。 そして過去に撤去された部分を復元し、東京五輪が開催される2020年までに仮称「国立工芸館」として完成させる予定だ。そうなると日本で唯一の国立で工芸を専門とする美術館が金沢にできるだけでなく、人間国宝の作品群を鑑賞できる機会が増えることになる。

 芸術と芸能の一大拠点として本多の森が人々で賑わい、能楽に触れる機会が増えることを願うばかりだが、移築されるまでは能楽堂の駐車場は利用できず、昨年の大雪時には来館者の足元に影響を及ぼしたことも考慮のひとつであったろう。

 しかし移築後の跡地は駐車場として整備され、現在の35台から最大で約130台を確保する予定になっている。とてもありがたいことだが、願わくば無料で願いたい。

 さて、2019年2月24日、約2週間ほど延ばして開催された「狂言を楽しむ会」は雪の心配をよそに穏やかな快晴に恵まれた。そして楽しみのひとつは2年続けて「靱猿」が演じられることだ。

 太郎冠者を従え狩りに出た大名は、猿引きが連れている小猿をうつぼの皮に使うからよこせと無理を言う。 猿引きが抵抗するも弓で脅され、やむなく急所を一打ちにしようとするが、小猿は稽古と勘違いしムチ(木の棒)を持って舟を漕ぐ真似をし始める。 それを見た猿引きはどうしても一打ちには出来ないと泣いてしまう。同情した大名は小猿の命を救うことを約束し、小猿と共に舞い始める。

 靱とは、矢を入れて背や腰に付ける稲穂形の武具のことで、雨に濡れないよう穂の部分に虎・熊・猿などの毛皮を巻いたり、鳥の毛で覆ったりする。

 可愛らしい小猿の演技はもちろんのこと、大名が小猿と出会い靱の皮にできるという喜び、断られて怒り、小猿に手をかけられない猿引きに同情し哀しみ、小猿と共に舞い楽しむという言葉通りの喜怒哀楽と、大名と猿引きの仲に入り少しづつ猿引きと小猿に感情移入していく太郎冠者の変化も見どころである。 演者の技量を問われる心理面の表現が素晴らしく、そしてなにより、猿引き役が実の孫である小猿役を後ろから見守る演技を超えた慈愛の姿が、物語に深みを与えいっそう涙を誘ったことではなかろうかと思う。

 曲の構成と展開が劇的で、緊張感のある前半から愛情の中盤へ、そして楽しい笑いで終わる。小猿役は初演が多いので見る機会は限定されるが、是非観てほしい曲のひとつだ。

 今回の 「狂言を楽しむ会」 では、狂言教室に新しく加わった小猿役の子供ともう一人男性が狂言小舞「よしの葉」を披露した。

 月に3回この日の為に狂言や狂言小舞の稽古をしています。狂言や狂言小舞に興味があるだけでなく、体の使い方や所作、声の出し方などに興味のある方でももちろん、一度見学に来てみませんか?

能楽師和泉流狂言方(野村万蔵家) 炭哲男の狂言教室

来年こそはと決意新たな(笑) by おっとこまえ

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