投稿日:2021年12月20日

くわのすけ〈コクワガタ♂飼育記〉

昨年初夏のある日、帰宅するとクワガタムシがコンビニで売られている何かしらジュースの透明のカップの中でもがいていた。どうやらご近所さんが道端にいたコクワガタを拾ったのを貰ってきたらしい。もがいているということは、きっと暑いのか寒いのか、お腹がすいちゃったか、のどが渇いちゃったか…そんなことだろうと思い、築城してエサでも入れてやろうと、ゴソゴソと保管してあったはずの古い虫かごを探してみた。しばらく探していると、子供の頃クワガタ取りをしていた記憶が攻めよせてきた。

今から四十年ほど前、生まれ故郷の大阪(河内地方)ではクワガタムシのことを「ゲンジ」と言った。近隣の市町村でもそう呼ぶところがあるらしいが理由はわからない。

仲間内ではノコギリクワガタを「スイギュウ」、ノコギリクワガタでも赤びかりしているのを「スイカ」と言った。

近くの山にはクヌギの木が多く自生していて、春から夏、暖かくなると小さなコクワガタから大ぶりなノコギリクワガタやカブトムシと徐々に、その樹液を求めて根元にある永年堆積した落葉や朽木の中からゴソゴソと這い出てきたものだ。

特にコクワガタだと越冬したものもいて、ノコギリクワガタやカブトムシはほとんど越冬することはなくその命は数カ月と儚かった。コクワガタやヒラタクワガタ、オオクワガタなどは何故か越冬していたのだ。平べったく自分の体に対してバランスの良い大顎を持っていると、気温が下がったときに地中の根の隙間や朽木の隙間に潜り込みやすいのだろうか。それで越冬していたのだろうかと勝手に解釈していた。

新しく成長し、また越冬したクワガタムシたちを待ち伏せて捕獲する。或いは、真夏でも朝方の気温が20度を下回っているときは、落葉の下でジッとしているのを捕獲する。25度前後になればクヌギの樹液に群がっていると決め込んで、木の下を思いっきり横蹴りすると、上からパラパラとクワガタが落ちてきたものだ。クヌギの樹液は独特の匂いがした。匂いがプンプンするときは、ノコギリクワガタやカブトムシがよく落ちた。初夏20度を超えて樹液の匂いがしないときに横蹴りすると、木肌を削り樹液を出そうとしている顎の小さいメスのクワガタがポタポタ落ちてくる。

子供の頃に友達とよく行った「ゲンジ取り」四十年以上も前の事をあれこれ思い出しているうちに虫かごが見つかった。

クワガタを飼育する時に、土、朽木、落葉は自然に近くするためにも必須で、近所の山や神社などの社叢から朽木や落葉を拾ってくるのもいいが、自然のものを使うと不衛生なものまで混ざっている場合があり、コバエなどの発生に繋がりかねないので、土は手元にあった市販の培養土をベースにして、市販のくぬぎ育成マットやバイオ朽木などを使用した。コクワガタが朽木と朽木の間を潜りやすくするために大きなものではなく、比較的小さくて軽そうなものを選ぶ。

そして気をつけねばならいないのは、気温と照明、そして水分だ。室内外問わず20度前後は維持したい。日中は眩しすぎず暗すぎず、夜は真っ暗が自然に近いだろう。これだけのことでコクワガタであれば2~3年は生きる。かもしれない。

オスのクワガタムシだから「くわのすけ」と名づけたコクワガタも飼育から一年経過し今年二回目の冬を迎えようとしている。というか拾った時点で越冬していたかもしれないので実はよくわからない。 10月を過ぎて朝の気温が15度くらいになる頃、虫かごがスッポリ納まる段ボール箱との隙間にタオルや小さい保冷マットを詰め込んで、ガレージに置いてある保存用の冷蔵庫の上に設置する。冷蔵庫の上はほんのり温かいからだ。 特に冬場は乾燥するので、適度に霧吹きなどで水分を与える必要があるが、段ボールで密閉してしまうと揮発しないので、これも害虫の発生要因となってしまう為、最低限度の隙間は必要だ。エサは市販の昆虫ゼリーを使う。ある程度食べ終わった残りのゼリーを爪楊枝かなんかで、朽木に擦りつけ自然の樹液みたいにすると、くわのすけはうれしそう…かどうかはわからないが、朽木にへばりついてゼリーを食べる。きっと嬉しいんだろう。

そして12月に入るといよいよ寒くなり、ガレージも最高気温が15度程度になってくると、ほとんど這い出てくることはなくなり朽木と育成マットの隙間で動かない日々が続いた。昆虫ゼリーもほとんど食べなかった。しかし乾燥はするのでこまめな霧吹きは欠かせない。それにしてもたまに暖かくなるような小春日和にもくわのすけは出てこなかった。

うーん…念の為確認してみると
いつもとは違う場所の朽木と朽木の隙間で硬くなっていた。もう動くことはなかった。

コロナ禍で一切飲みに行かなかった令和三年度はくわのすけと共にあった。

コクワガタのくわのすけ

短い間だったけど、ありがとう。

1年と2か月ぶりの不定期更新万々歳!酔いお年を~ by おっとこまえ

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