投稿日:2015年4月10日

春の金沢 狂言の会 見物左衛門 花見

毎月朔日には欠かさず?参拝する、高皇産霊神社(石川県野々市市)はすっかり春の装い

高皇産霊神社(石川県野々市市)の桜

桜…といえば!

去る 平成27年3月29日(日)

「異流競演 狂言の会」と題して「大蔵流茂山千五郎家」を石川へ招き、石川県立能楽堂にて競演とあいなった。

異流競演 狂言の会 金沢 2015年3月29日
異流競演 狂言の会 番組 金沢 2015年3月29日

開演前には野村万蔵氏と茂山千三郎氏が両家流派の違いを実際の台詞や動きに合わせて解説くださり

最後に、両家ともにある「狂言小舞きょうげんこまい雪山ゆきやま」を舞台半分左側を茂山千三郎氏、右側半分を野村万蔵氏が同時に謡いながら舞った。

非常に面白い試みでしたので「狂言小舞 雪山」を記しておこうと思う。


狂言小舞 雪山

春毎はるごと

♪ 君を祝いて若菜摘む

♪ 我が衣手ころもでに降る雪を

♪ 払はじ払はで

♪ 其のままに受くる袖の雪

♪ はこびかさね雪山を

♪ 千代に降れとつくらん

♪ 雪山を千代とつくらん


さて、桜…といえば!今回三演目のうち

和泉流狂言方で人間国宝、野村萬氏が「見物左衛門けんぶつざえもん 花見はなみ」を演じた。


この「見物左衛門」は和泉流三宅派だけに伝わる番外の狂言と云われ、今回の「花見」のほかに「深草祭」という筋立てもある。

互いに終始一人で演じるとても珍しい狂言だ。

とくに「花見」は演じられることもほとんど無いということで、今回解説とまでは行かないが少し紐解いてみたい!

【見物左衛門 花見】

シテ(見物左衛門):野村萬


此の辺りに住まいする見物左衛門が京都清水寺の地主じしゅの桜が盛りだと聞いて、花見の友である「ぐつろ左衛門」(愚図郎ぐづろざえもん)を誘いに行く。

ところが「ぐつろ左衛門」はすでに花見に出かけたため、しかたなく一人で出かけることにする。地主の桜の盛り具合に大そう驚く。


「咲きものこらず散りもはじめずとはこのことじゃ」(「けふ見ずは くやしからまし 花盛り 咲きものこらず 散りもはじめず」 能「鞍馬天狗」より)


あちこちで酒宴をする花見客の多い中、ひとり小竹筒ささえを取り出し独酌の花見を始める。

(小竹筒とは酒を入れる携帯用の竹筒のこと)


「どぶ どぶどぶどぶ さらば飲もう」

♪ また花の春は清水の、ただ頼め頼もしき、 春も千々ちぢの花盛り (謡曲「熊野」より)


すると臨席に顔見知りの「福右衛門ふくうえもん」が舞っている。

その舞に感心して褒めると、今度は乞われて謡を一節謡う。


♪ 地主の桜は、散るか散らぬか。

♪ 見たか水汲み。

♪ 散るやら散らぬやら、嵐こそ知れ (閑吟集 27より)


今度は嵐山の桜も満開と聞き、「まことに春宵一刻値千金しゅんしょういっこくあたいせんきんと申すは今のことでござる」春の夜の趣には千金の値打ちがある。)(蘇軾そしょく・詩「春夜」より)と言って少々遠いが嵐山へ出かける。

太秦太子の社(広隆寺)を通り、楊貴妃桜、しだれ桜、かば桜、御所桜などを見物しながら嵐山に着くと、また小竹筒を取りだし独酌の花見に興じる。

♪三吉野の

♪三吉野の

♪千本の花の種植えて

♪嵐山あらたなる神遊かみあそびぞめでたき (小謡 能 「嵐山」より)

そして遠くから聞こえてくる謡に合わせて舞い興じる。

「某も一指し舞おう」

♪ 京から下る小山伏

♪ 肩にからかさ、お手に数珠

♪ 腰に法螺の貝

♪ 袂に恋の玉章たまずさ(恋の玉章とは、現代では美しいラブレターのことかなぁ)

♪ お客僧うけ給ふ

♪ 柴垣越しに物問はう (小舞謡 小山伏より)


橋を見ると子供が川へ入って魚釣りをしている。たくさん魚を獲るのを見て喜んでいると子供たちが川岸に寄り始めた。すると川上から筏流しが連なってきた。また川面を見ると管弦を奏でながら貴族が舟遊びする舟が通る。舞人の舟や楽人の舟、篳篥ひちりきの舟など、その様子に興味をそそられて笛や鼓の音を真似て遊ぶ


「身共も ちと がくを真似てみよう」

「ほ~」
「ひ~」
「ど~」

柿本渋四郎左衛門かきのもとのしぶしろざえもんと出会い、御室(仁和寺御室桜)、北野(北野天満宮)、平野(平野神社)の桜見物に誘われるが、今朝より地主の桜や嵐山まで参りことのほか疲れたので誘いを断る。


♪ 名残の袖を振りきりて 名残の袖を振りきりて (狂言「花子」に出る小謡に始まる)

♪ さて住なうずようなう

♪ 噴き上げの

間幸合の糟まさごのかす(閑吟集 228)

♪ あら名残惜しやの

♪ はるばると別れきて

♪ はるばると別れきて

♪ 面影の立つ方をかへりみたれば花散ろう (狂言「花子」に出る小謡の替謡?)

♪ 残りたりや 名残惜しやの

♪ さらばさらば


狂言「花子」の最後のほうに出てくる小謡にはじまり、閑吟集(228)の一部が謡われ、次に狂言「花子」の替歌らしきものが出てきて、「さらばさらば」と去ってゆく。

この見物左衛門には閑吟集から小謡が二曲出ているが、ともに男女の事情を表現した…っといいますか…閑吟集は恋愛歌が中心なので下ネタが多い。

また室町時代当時の庶民の生活感情をよく伝えているため、狂言の原点に近いものがあると、勝手に思ってマス。

狂言の大曲「花子」の小謡を花見に置き換えて謡うところなど、なんともセンスの良いおっとこ前な見物左衛門さん。

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